| 人の心が読める |
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あなたは、人の心が読めるだろうか? 私は、人の心が読める。と言っても超能力者ではない。 『他人の無意識の独り言が、私の脳の中で聞こえる』ということだ。 私は、科学者・発明家だ。自称ではあるが。ある大学の院生として在籍し、かつ『国家情報生体科学部門』略して”NIVS”の研究部員でもある。 専門は、『脳伝導』である。聞きなれないとは思うが。 最先端の技術研究の一つである脳伝導技術は、その初期理論の発表から既に五年間で、実用化にこぎつけつつあった。あくまでも『こぎつけつつ』だ。実用化には、未だに到っていない。国はね……。 私は、既に大学に入る前から、ある目的の遂行のためにこの分野にいち早く目をつけていた。手に入る最新の論文を取り寄せて、独学で勉強してきた。入学する大学の選考直前に、ある大学に脳生理学を専門とする学者が集められて、十数名で構成される研究団が組織された。先の”NIVS”の前進に当たるものである。私は、迷わずその大学を受けて、当然合格した。 私の優秀さは、担当する博士らに見出され、すぐにメンバーの一員となった。 その後、今の組織名に変名される。その発足当時から資金は潤沢だった。表面上は、複数の製薬会社や医療メーカーの資金援助とされているが、背後には国家の軍事機関が関与されていると噂されている。だが、資金源などどうでもいいことだ、私にとっては。 私は、直ぐにその専門部門内で、頭角を現すようになっていった。現在では、実質上の第一人者といっていい。だが大学とは学閥でもある。私の上にも無能な教授連が、たんまりと居座って私の研究成果と実績を全て横取りして、教授達の力関係で分配している。だが、低俗な行為などどうでもいいことだ、私にとっては。 ピンポーン。 私の自宅の呼び鈴が鳴る。書きかけの論文を、パソコンで打っていた手を止める。念のため保存する。冷たくなったティーカップを取って、一口飲む。催促のチャイムがもう一度鳴った。 私は、一人暮らしだから、インターフォンに出なければならない。立ち上がって、受話器を手に取った。 「はい」 「あ。黒豚宅急便のものです。お預かりの物をお届けに参りました」 軽快な口調で言ってきた。私は、頭を切り替えて接続した。直ぐに聞こえる。 『あ〜。うぜえな。早くしろよ! 暑ちいんだからよ!』 そう。今ドアの向こう側にいる業者の男に。男の脳の中に回線が繋がっている。そしてこの男の『無意識の独り言』が私の、脳の中でしゃべっているのだ。声質もほどんど同じだ。 私は、ドアを開けた。男が、逸る声で言う。 「どうも。このお荷物が一つですね。えっと。この部分にサインをお願いします」 『お〜涼しい冷気。いいなあ、こいつはよう……。やってられねえぜ、こんな猛暑によう。ささっとしろよ』 私は、男からペンを借りて、サインの場所を確認した。 「ここですね?」 「そうです。はい。ここです」 『ふっざけんなよ、おい! 見て解かんだろうがよ!』 荷物を男から受け取り。あらかじめ用意しておいた、二つの新しい小荷物を、男に渡しながら言った。 「あ。すみませんが、この荷物の配達をお願いします。着払いで」 男の返答は、早かった。 「はい。かしこまりました。着払いで……外国ですか。はい。では、お預かりいたします」 『ふざけんなよ、この野郎! 手間増やすんじゃねえ。馬鹿野郎!』 男は、にこやかに笑って、軽く会釈して去っていく。 『まったく糞暑っちいなあ〜。おい。急がねえと注禁がよおう……。えっと、次は十階か……』 人が話すときや、黙読するとき、前頭葉や海馬と呼ばれる脳の領域からの情報が、意識によって発生されて。脳幹の部分の小さい器官『ウィルニッケ言語中枢』と呼ばれる部分に情報が統合される。このウィルニッケ器官によって、認識したこと、話すこと、または黙読することが意識と言語に変換される。 脳の大脳皮質に、無機的な電極をいくら埋め込んでも、その内容を判別することは不可能だ。例えば、コンピュータの内部を直接的に、覗き見るに等しい。機械語の『0101……』という羅列を見るようだ。 コンピュータのOSにあたる部分。コンピュータと人間の間にあって、機械語を翻訳する立場にあるのが、人の脳でいえば、先ほどのウィルニッケ器官に相当する。 このウォルニッケ器官に、物理的に直接に『生体マイクロ受信機』を取り付ける。『機械』とはいっても風邪のウィルスよりもさらに小さい。風邪のウィルスに取り付いて、伝播する。人に取り込まれた、風邪のウィルスは、その人の脳までは到達できない。そこからは、この『機械』が自走して、感染者の脳幹部分にあるウィルニッケ器官に辿り着いて、設置される。 「あなたの名前は?」 例えば、私があなたに向かって、こう言うと。 あたなの頭脳は、反応してウィルニッケ器官に、答えが集約される。その答えを意識しても、意識しなくても。無論、黙読すれば。 『浩一郎だ』と私の頭の中で聞こえ。 音読しても、「浩一郎だ」『浩一郎だ』が重複して私には聞こえる。 質問を認識して、意識してしまうだけで、あなたの頭は勝手に答えを用意してしまう。無意識に。まさに本音というわけだ。 私の脳に設置しているのが、受信専用の『母体』で。 あなたの脳に設置されているのが、送信専用の『子体』である。 と、ここまでは私が属している機関での話しだ。二人の被験者がお互いに見える形で向き合って、この実験をする。昨日のことだが、この実験を研究所で成功させて、皆が喜んでいた……稚拙だ。 ほとんどは私の研究成果だった。私の成果を小出しに出しているに過ぎない。研究費用が断たれない程度にな。 既にこの程度であれば、私は二年前に完成させていた……。 「好きです。付き合いませんか? 私と」 私は、大学で有名な清楚系の美人、高村玲子に告白した。彼女は、女性雑誌の専属モデルをしているらしい。 私とて、絶世の美男子というわけでは無いが、そこそこの二枚目だ。スタイルも良い。スポーツも成績も常にトップだ。正直、女にはモテる方だろう。となれば、かつ彼女に彼氏が居ないのであれば、狙うだろう? 彼女は、遠慮がちに答えた。 「……あのう……。片思いしている。好きな人がいるので……。ごめんさい……」 『うわっキモ! 何?、自分がモテるとでも思ってんの? 馬っ鹿じゃない? 二枚目気取りで、気持ちわる〜』 彼女は、丁寧にお辞儀をして去っていく。 まあ、いいだろう別に……今はな。 私には、目的がある。いや、野望と言っていい。 定期的に、郵便物を全国に向けて、郵送してきた。『生体マイクロ受信機』が取付いた、風邪ウィルスを混入させている小包。 名目は、なんでもいい。まあ、方法は色々とあるが、基本的にはオークションだ。くだらない物を、出品しては買い手のついた相手の住所に送りつける。風邪をひいたことの無い人間などいないだろう? 感染されれば相手は、私にとって”筒抜け”の存在になる。 風邪ウィルスが収集されて、機械の存在を確認されることはまず不可能だ。さらに、脳幹のウィルニッケ器官に取付いた機械を、認識するのはさらに不可能だ。解剖しなければならないからだ。 天才の私が開発したシステムは、さらに上を行く。送信用の『子体』から発信したデータは暗号化され、最寄の携帯電信塔もしくは、無線ブロードバンドにてインターネット回線から、私のパソコンに集約される。そのデータは直接に私の脳にある受信用の『母体』に接続されている。 既に、『子体』を接続した人数は、一億人に近づいていた。この国の国民は、私の手の中にある。いや、頭の中か。 『私は、神になる』 送信用の『子体』には、アドレスで識別され、サーバープログラムを介して自動的に個人情報を取得していく。私のパソコンで全てが、参照可能だ。無論、パソコンがハッキングされることは無い。完璧な防御を施してある。完璧なトラップも。 そして……。昨夜に完成させた『子体の送受信機能の追加プログラム』を子体へと、インストールさせれば。インターネットを介在して、私と相手とが、声を発することなく会話ができるということになる。無論、選択制御権は、『母体』を持つ私にある。 すなわち、私『=神』と会話ができるというわけだ、頭の中だけで。私という個人が判明されることは無いし、証拠も出ない。 私は『神』となって君臨する。『子体』という機械に殺傷能力が追加され無いとどうして言える? 勿論、すべてのことが可能だとは言えないが、いろいろ面白いことが出来そうだ。『神になりきる』のほうが近いか。そして私の命令によって従属させることも。 そう。このパソコン画面にあるボタンを押せば……。 ピンポーン。 呼び鈴が鳴った。 『呼び鈴が鳴った』『呼び鈴が鳴った』『呼び鈴が鳴った』 ん? なんだ? 混線する。 『混線する』『混線する』『混線する』 『…まずいな…』『…まずいな…』『…まずいな…』 ハウリングのような混線。私が知らない男の声と、自分の声。 パソコンで対象を選択していない場合は、物理的に私自身の受信用の『母体』に接近していることを意味する。 まさか!? 『まさか!?』『まさか!?』『まさか!?』 『…突入する…』『…突入する…』『…突入する…』 私の家のドアが、手際よく静かに破壊され。二人の黒服の男が、乱入してきた。拳銃を持っているようだ。 まだ、間に合う! ボタンを押して、インストールすれば、殺すことも可能だ! バシュッ! 黒服の一人の男が、もう一人の男の目を見て言った。 『間に合ったな。即死か?』 その男が、目の前で倒れている若者を見ながら答える。 「そうだ。間に合った。なかなか切れる奴だな、こいつは。インストールして俺達を殺そうとするとはな。しかも、俺の脳の中に『母体』が設置されていることを瞬時に悟りやがった……」 一人の男が、うつ伏せに倒れている若者を、足で裏返しにした。 若者の額の真ん中に、銃弾が打ち込まれている。目は、見開いたままだ。 「まあ。こいつの学者としての利用価値もここまでという事だ。これからは、『国』が管理する」 「流石に、自分の脳に送信用の『子体』がセットされて。しかも『母体』を持つ他人が居るということまでは、気が付かなかったというわけだな。もう何年も筒抜けだったのだよ」 二人の男は、死体を踏まないように、跨いだ。 「終わったな。別部隊が、後始末をする。帰るか……」 「ん? なに? 混線する。さっきのハウリングだ。なんだ? 我々の会話を聞かれているようだ」 「まさか!? 『母体』を持つ奴がまだ居るのか?」 「これを読め! 答えろ!」 『お前は誰だ? 名前は? 住所は?』 「……」 「ふっ。無意識の中で答えたな。名前も、住所も解ったぞ! 我々の組織を侮っては困る。インストールするまでも無い。全国に展開する組織員が、今そっちへ向かう。待っていろ!」 黒服の男が、『あなた』の自宅の呼び鈴のベルに、指を掛けた。 おわり
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ひろ
2007年 公開 ■この作品の著作権は「ひろ(ひろたか)」にあります。無断転載は禁止です。 |
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