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タンポポな子供たち


 私の150人の愛する子供たち。

 その受精によって、私の体内に子供が宿った。私のお腹が日に日に大きくなる。

 ブルーになっている感情を察して、私の寝ているベッドの横にいてくれる夫が、傍で声をかけた。
「僕達の大切な、子供たち。もうすぐ、生まれるんだね。僕は幸せ者だ」
 愛する夫の声に、私は心を少しずらして、溜まったため息を少し吐き出して言う。
「どうせ……。秋の風が吹く頃には、みんな、皆……行ってしまうのでしょう?」
 夫は、優しく温かく微笑んで私の手を握った。私の視線は、窓の外のゆっくり流れる真っ白な雲を眺める。

 秋の涼しい風が、やさしく吹き始めた。
 お産の激痛と苦痛は、否応なくやって来る。「死んでしまいたい!」という感情が私の深奥の全部を支配した。
 波嵐のような陣痛に耐える私。ベッドのシーツを握る両手に力が入る。歯軋りで、奥歯が削れる。
 私の体内に宿った、150人の子供たち。その一人一人の本能が、私の身体と反応して、私から生まれ出ようとしていた。
「がんばれっ!」
 励ます夫の声が、私の耳の遠くに聞こえる。
 私のお腹の最初の種の一粒が、私の胎からもぎ取られるようにして、私の体から生まれ出た。
「おぎゃあ〜。おぎゃあ〜」
 親指ほどの小さな私の赤ちゃんが。口を大きく開けて、激しく泣いた。
 目に大きな涙を浮かべながら、生まれた歓びを噛みしめるように、激しく泣いている。
『ああ。私の子、私の子。私の愛する子』
 私の心の深いところから、大きな喜びと深い満足感が、こみ上げてくる。そして、深く篤い愛情が張り裂ける。
 今生まれ出でた、一人目の子は、私の掌に乗って小さな赤い手足を震わせていた。生まれたての赤ちゃんの肌は、しわしわで弱々しい。
 まだ、その瞳は開かれていない。その眼は、私達を見ることは、無い。
『とっても愛しい私の赤ちゃん。でも、もうお別れ……』
 夫もそれを知って涙する。深い愛情が、同じだけの深い哀しみに変わった。

『こんなことを150回も繰り返すなんて』

 私の掌に乗る一人目の子は、まだ泣いているのに。その未熟な体は、その時を本能的に知っている。  
 赤ちゃんの小さな頭の髪の毛が、その一本一本の毛が、急速にゆっくりと伸びていく。赤ちゃんの肩まで伸びると髪の成長は止まり。
 か細く白い一本一本の髪の毛が立ち上がり、髪全体が逆立ち始めた。その一本一本の毛先が無数の枝毛となって、ふんわり綿毛に膨らんだ。
 赤ちゃんのふわふわ頭の綿毛は、部屋の緩やかな空気の流れに反応して、もぞもぞ動く赤ちゃんの軽い体を持ち上げる。
 私の掌から重さが無くなって、私の目から哀しい涙が溢れ出る。心の実が一つ、削れ去ろうとしていた。
 浮遊する綿毛の赤ちゃんは、ふわふわと私達の顔の前の宙を浮く。愛らしい泣き顔との最後の対面をした。
「私達の赤ちゃん。さようなら。元気でね」 私と夫は、声を揃えて言う。
 私の赤ちゃんは、開かれた窓の外までふんわりふんわりと浮かんで。外の冷めた風に乗って、すばやく流れ去っていった。 

 風に乗った子たちは、新しい土地に舞い降りて、根を張り、そこで人生を初める。
 直ぐに次の子の陣痛が、私を激しく襲い始めた……。

 子供たちは、風に乗って行ってしまった。
 
 150個の綿毛を飛ばした、父と母はその役割を終えて枯れていく。


 

    おわり


2007年10月13日(土) 22時18分46秒 公開
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